墨子卷之十四 ##備城門第五十二 [#2字下げ]備は愼なり具なり、孫注に據るに、本篇以下雜守篇に至る迄、凡そ二十篇、皆禽滑釐が受けし守城の兵法なり、李筌が「太白陰經」守城具篇に、{禽滑釐問フ2墨翟ニ守城之具1墨翟答フルニ以テスト2六十六事1}とあり、即ち以下數篇を指して言へるなり、六十六事一に五十六事に作る、呉鈔本墨子に本篇を第五十四に作る、乃ち前に兩篇の闕あるべし、要するに今兵法諸篇闕くる者多く、文字脱誤錯互頗る衆く篇中に記する兵械名制の詳も、亦得て質證すべき者なし、姑く其の大概を解し、以て後ちの解人を俟たん、 {禽滑釐問ウテv於《ニ》2墨子1曰ク、由レバ2聖人之言ニ1、鳳鳥之不v出デ、諸侯畔キ2殷周之國ニ1、兵方ニ起ルv於2天下1、大攻メv小ヲ、強執ルv弱ヲ、吾欲スv守ラント2小國ヲ1、爲スコトv之ヲ奈何ン、子墨子曰ク、何ノ攻ヲ之守ルカ、禽滑釐對テ曰、今之世常ニ所ノ-2以ル攻《ハ》1者、臨鉤衝梯堙《イン》水穴突空洞蟻《ギ》傳《フ》轒《フン》轀《ウン》軒車、敢テ問フ守ルコト2此ノ十二者ヲ1奈何セン、} [#折り返して1字下げ]【大意】 禽滑釐先づ衰亂の世は、戰の免るべからざる事を述べて、守城の法を問ふ、 [#折り返して1字下げ]【通釋】 墨子が門人禽滑釐墨子に問うて曰く、聖人の言に由れば、世は衰亂に傾き、天下太平の祥瑞たる鳳鳥は來り至らず、国々の諸侯、各自に獨立して、天下の帝王たる殷周の國に離畔し、戰爭方さに天下に起り、大國は小國を攻め、強者は弱者を執らへ、力奪を是れ事とし喪亂已むことなし、是の時に於て吾れ小國を守らんと欲す之を爲すこと如何にせば可ならんか、子墨子曰く守りの法亦各種あり、一體に子は如何樣なる攻め方に對して守り禦がんとするか、禽滑釐曰く今世常に敵を攻むるに用ふる者は、一に臨あり、二に鉤あり、三に衝あり、四に梯あり、五に堙あり、六に水あり、七に穴あり、八に突あり、九に空洞あり、十に蟻傅あり、十一に轒轀あり、十二に軒車あり、敢て問ふ此の十二種の攻具に當りて、城を守る方法は如何と、 【解義】 [#ここから1字下げ] [#折り返して1字下げ]【鳳鳥の不出】鳳凰は靈鳥にして天下太平なれば至ると云ふ、「論語」に{鳳鳥不v至ラ河不v出サv圖吾已矣《ヌル》夫《カナ》}とあり、禽滑釐の言蓋し此類を指して云ふならん、 [#折り返して1字下げ]【殷周之國】殷周共に天子の國なれば、唯《タゞ》王國の義に用ふ、深く拘らずして可なり、「呂氏春秋」の先己篇にも{商周之國謀失ヒv於v胸令困ムv於v彼}とあり、商周は即ち殷周にして、亦當時天子の國を稱するの語なり、 [#折り返して1字下げ]【臨鉤衝梯】臨は上より下に臨む義也、畢注に臨車也と解すれども亦水陸攻守の諸械、凡そ高を以て下に臨む、通じて臨と名づく、必しも臨車のみならずと云ふ、鉤は長鉤《ナガキカギ》に縁りて城を攻むる器械の名なり、もと備鉤篇あり、今佚して傳はらず、衝は衝車なり、大鐵を轅端に著け、馬に甲を被らしめ、車に兵を被らしめて、敵城を衝く器械なり、孔頴達の説によれば、墨子に備衝篇あり、今佚すと、梯は雲梯なり、本書に備梯篇あり參攷すべし、 [#折り返して1字下げ]【堙水穴突】堙は兵法に城を攻むるに土を築きて山となし、以て城内を窺望する者を距堙と曰ふとあり、即ち是なり、又煙に作り、闉若くは湮に作る、皆音相通ず、水は後文に備水篇あり參考すべし、穴は後文に備穴篇あり、突も穴の一種なれども、其の制詳かならず、後文に備突篇あり、又攻法を審かにせず、 [#折り返して1字下げ]【空洞】空は竅なり、洞は通なり、亦穴突の類ならん、其の制詳からなず、蟻傅は「孫子」の注に{使メ2卒ヲシテ徐ニ上ラ1v城ニ如クv蟻ノ縁リv城ニ殺スv人ヲ也}とあり、後文に備蛾傅篇あり、即ち此法を述ぶるなり、 [#折り返して1字下げ]【轒轀軒車】四輪車の上に、生牛皮を蒙らしめ、其の中住人を藏むべく、推して敵城の下に至り、攻すべく、金火木石も敗る能はざる者を轒轀車と謂ふこと通典に見ゆ、もと本書に備轒轀篇あり、今佚す、軒車は其の制詳かならず、或は樓車なりと云ふ説あり、 [#ここで字下げ終わり] {子墨子曰ク、我ガ城池修リ、守器具リ、樵粟足リ、上下相親モ、又2得四鄰諸侯之救フ1、此レ所-2以持スル1也、且守者雖v善ト、而君不レバv用ヰv之ヲ、則猶若《コレ》不ルv可ラ2以テ守ル1也、若シ君用フレバv之ヲ、守者又必ズ能ク守ラン、守者不能而テ君用レバv之ヲ、則猶若《コレ》不ルv可カラ2以テ守ル1也、然ラバ則守者必善ニシテ、而君尊-2用シ之ヲ1、然ル後ニ可キ2以テ守ル1也、} [#折り返して1字下げ]【大意】 以下墨子守禦の方法を答ふ、先づ大將其の人を得て採用するを務むべきを言ふ、 [#折り返して1字下げ]【通釋】 子墨子曰く守禦の法は、先づ内備を整ふにあり、我が城池修り守禦の器械具はり、薪糧充足して、上下の間相互に親み、又四方鄰國諸侯の救援を得、此《コレ》能く守る所以なり、且、守將たる者善く敵を禦ぐと雖ども、而して君主たるもの之を用ひざるときは、猶是守る可らず、若し君主能く之を用ふれば、守者又必らず能く守らん、守者不能にして而も君之を用ふれば、猶是守るべからず、然らば守者必ず善く守り而して君之を遵ひ用ひ、然る後ちに以て敵を禦ぎ城を守るべきなり、 【解義】 [#ここから1字下げ] [#折り返して1字下げ]【而君尊用之】尊は遵と同じ、又字の如く解するも可なり、 [#ここで字下げ終わり] {凡ソ守圉_城之法、厚クシ以テ高ク、壕池_深クシテ以テ廣ク、樓撕《セイ》脩リ、守備善利ニシテ、薪食足リ3以テ支フルニ2三月以上ヲ1、人衆以テ選ビ、吏民以_和シ、大臣有ル3功-2勞於1v上者多ク、主信シテ以義、萬民樂ミテv之ヲ無シv窮リ、不レバv然ラ、父母墳墓在リ焉、不レバv然ラ、山林草澤之饒足ルv利スルニ、不レバv然ラ地形之難クv攻メ而易トv守リ也、不レバv然ラ、則有3深-2怨於1v適《テキ》而テ有リ3大-2功於1v上、不レバv然ラ則賞明ニシテ可クv信ジ而テ罰嚴ニシテ足ルv畏ルゝニ也、此ノ十四者具レバ、則民亦宜《ヨロシ》_2丌《ソノ》_上ニv矣、然ル後ニ城可シv守ル、十四ノ者無レバv一、則雖モ2善者ト1不v能ハv守ルコト矣、} [#折り返して1字下げ]【大意】 善く守る將帥ありと雖ども、亦方法なきときは守禦すること能はざるを言ふ、 [#折り返して1字下げ]【通釋】 凡そ守禦の法は城壘は手厚くして高く城下の道を壕と曰ふ壕下に池あり、壕池は深くして幅廣く樓櫓は脩りて手入れ行き屆《トゞ》き、守備は善く便利にして薪や食物は、少くも三月位は支ふるに足り、人數は衆くして選り拔きし者なり、吏民は和き睦く、大臣の國家に力を盡して功勞ある者は多くして、君主は之を信任して義理を守り、萬民は之を樂みて窮りなし、若し然らざれば其の地は父母の墳墓が存在する處にして、子孫として必らず守らざるべからざる處なるか、若し然らざれば山林草澤の物産が澤山ありて利益の十分ある處なるか、若し然らざれば地形の險阻にして味方は守り易く、敵方は攻め難き處なるか、若し然らざれば敵方に對しては骨髓に徹する深怨ありて、味方の上たる人に對しては大勳功ありて尊貴せらるゝ者なるか、若し然らざれば味方の昌譽は公明にして有功の者は必ず賞せられて信頼すべく、刑罰は嚴畯にして有罪の者必らず罰せられて、畏れ敬ふべき者なるか、以上の十四件と云ふ者が悉く具はるときは、國民悦服して亦其の上たる者に都合宜しかるべし、然る後ち敵軍に攻め寄せらるゝとも、城は大丈夫守るべし、之に反して若し十四件と云ふ者が、其の中一件なきときは、善き人あらんとも城を守ること能はざるなり、 【解義】 [#ここから1字下げ] [#折り返して1字下げ]【守圉之法】圉は禦と同じ、 [#折り返して1字下げ]【壕池深以廣】「釋名」の釋道に、{城下ノ道ヲ曰フv壕ト}とあり、城下にある池上の道なり、 [#折り返して1字下げ]【樓撕修】樓は物見矢倉の類なり、孫注によれば撕も樓の別名なり、 [#折り返して1字下げ]【此十四者】本文の{大臣有2功勞1}より{萬民樂v之無v窮}に至るまでを合せて、一事件として他の城厚以高より以下の事件を列らね數ふるときは、十四となるべし、 [#ここで字下げ終わり] {故ニ凡ソ守城之法、備ヘ2城門ヲ1爲ル2縣門浣《クワン》_機ヲ1、長サ二丈、廣サ八尺、爲シv之ヲ兩ナガラ相如ク、門扇數《サク》ニシテ、令ルコト2相接セ1三寸、施シ2土ヲ扇上ニ1無クv過ルコト2二寸ノ1、塹中深サ丈五、廣サ比ブv扇ヲ、塹ノ長サ以テv方ヲ_爲スv度ト、塹之末爲ル2之ガ縣ヲ1可シv容ル2一人所ヲ1、客至ラバ、諸門戸皆令2鑿チテ而冪《ヘキ》セ1v孔ヲ、孔シv之ヲ、各爲ル2二冪《ベキ》ヲ1一ハ鑿チテ而繫ゲv繩ヲ長サ四尺、} [#折り返して1字下げ]【大意】 守禦法中の縣門を設くる法及ひ門戸を鑿冪する法を述ぶ、 [#折り返して1字下げ]【通釋】 故におよそ城を守るの法は、城門に備へをなして縣門を爲る、其の方法は機關を設け、長さ二尺廣さ八尺を一扇の廣度となし、左右二門扇を造りて共に同度となし、門扇は其の編み方極めて密接を保ち、竹葦を衝接して三寸間の隙に過ぎず、又扇上に薄く泥土を塗りて、厚さ二寸に過ぐることなく、阬塹中の深さは一丈半にして、廣さは兩門扇を比《ナラ》ぶる尺度にして、即ち一扇の廣さ八尺の倍數なり、阬塹の長さ方形を以て度となし、阬塹の端《ハシ》に縣門を造りて、一人|許《バカリ》を容れて通行せしむ可きを、通路の廣度となす、是を縣門設置の法とす、敵兵城下に至るときは、諸の門戸は皆鑿して|孔竅《アナ》を爲《ツク》りて、弓矢を射る處となし、敵に知れざるやうに幕類の物を以て之を覆ひ隱し、毎門扇に各、二孔づゝ鑿ちて、之を覆ひ隱し、其の一は孔を鑿ち物を以て覆ひ隱して、更に又繩の長さ四尺ある物を繋ぎて、牽挽の用と爲して備へ置くべし、是れを門戸を鑿冪する方法となす、 【解義】 [#ここから1字下げ] [#折り返して1字下げ]【爲縣門浣機】縣は懸の古字、浣は關と通ず、又管に作る、縣門は版を編みて其の廣さ長さ皆眞の門と同くし、機關を施し、以て門上に懸く、寇の至るときは機を發して、之を下だす者なり、「左傳」の襄公十年の孔疏に見ゆ、「太白陰經」にも{縣門ハ縣ケ2木版ヲ1以テ爲ス2重門ト1}とあり、 [#折り返して1字下げ]【兩相如】兩門扇の度相同きこと、 [#折り返して1字下げ]【門扇數】扇は戸扉なり「禮記」の月令の鄭注に、{用ルヲv木ヲ曰ヒv闔ト用ルヲ2竹葦1曰フv扇ト}とあれども、此所は散文なれば、木を編みて造りし扉も亦扇と云へるなり、數は促と同じ迫ること、 [#折り返して1字下げ]【施土扇上】城門ノ扇及び樓堠は泥を塗り、以て火災に備ふること「通典」に見ゆ、 [#折り返して1字下げ]【可容一人所】一人所は一人許と曰ふが如し、 [#折り返して1字下げ]【客至】客は敵人なり、兵を起して人を伐つ者を客と曰ひ、敵の來るを以て捍禦する者を主と曰ふこと禮記の月令篇の孔疏に見ゆ、 [#折り返して1字下げ]【皆令鑿而冪之】鑿は竅を鑿ち造るなり、冪は覆なり又幎に作る、孔は竅なり、 [#ここで字下げ終わり] {城ノ四面四隅、皆爲シ2高磿《レキ》撕《シ》ト1、使ム[#下]重室ノ子ヲシテ居リ2丌《ソノ》上ニ1候セ[#上レ]適サ、視ル3丌《ソノ》態《タイ》状與《トテ》2丌《ソノ》進退左右所ノv移ル處1、失スレバv候ヲ斬ス、適人爲シv穴ヲ而テ來ル、我亟《スミヤカ》ニ_使メ2穴師ヲシテ選バ1v士ヲ_、迎ヘ而テ穴スv之ヲ、爲メニv之ガ且ヘ_2内弩ヲ1以テ應ズv之ニ、民室ノ材_木瓦石、可キ3以テ益ス_2城之備ヲ1者ハ盡ク上ルv之ヲ、不ルv從ハv令ニ者《ハ》斬、} [#折り返して1字下げ]【大意】 守禦法中の敵人を窺候する方法及び材木瓦石を徴用する方法を言ふ、 [#折り返して1字下げ]【通釋】 城の四方正面、又は四方の隅角に皆高き樓櫓欄檻を造り、貴族の子弟をして其の上に居て高處より敵人の動靜を斥候せしめ、敵の状態と其の或は進み或は退き或は左し或は右して移動をなす處を視察報告せしむ、若し斥候の方法を誤り違ふ者は直ちに斬に處す、是を高樓斥候の方法となす、又敵人地中に穴を鑿ち隧道より來り攻むる時は、我が軍は速に穴係りの技師をして、善技の士を選び、此方より逆《サカ》寄せに穴を鑿ち隧道を造り、之が爲めに穴内にて用ふべき短弩を具へて、敵兵の來襲に應ぜしむ、是を備穴の法となす、城の防備に供へんが爲めには、民家の材木石瓦の類にて、用ひて城の備へに益ある者は一切殘らず之を上らしむべし、若し頑固にして命令に從はざる者あらば、直ちに斬に處す、是を民室の物を徴發する方法となす、 【解義】 [#ここから1字下げ] [#折り返して1字下げ]【城四面四隅】四面は四方の正面なり、四隅は城の四方の隅角、即ち角浮思と名づけて通常の城よりも高きこと大率二雉(二丈)となす事、「考工記」の賈疏に見ゆ、 [#折り返して1字下げ]【皆爲高樓磿撕】磿撕は欄檻なり、其の説孫注に見ゆ、文長ければ略す、 [#折り返して1字下げ]【使重室子】重室子は貴族の子なり、號令篇にも富人重室之子とあり、 [#折り返して1字下げ]【居丌上候適】丌は其の古字、適は敵の假字なり、 [#折り返して1字下げ]【視丌態状】態[#原文ではにんべんに能]は態と同じ、態状は状態なり、 [#ここで字下げ終わり] {「昔築」七尺ニ一ノ居_屬アリ_、五歩ニ一蘲《ルキ》五築有リv銕《イ》_、長斧アリ、柄ノ長サ八尺、十歩ニ一長鎌アリ、柄ノ長サ八尺、十歩ニ一斲《タク》_、長椎《ツキ》、柄ノ長サ六尺、頭ノ長サ_尺_、三_歩ニ_一大鋌《エン》、前ノ長サ尺、蚤ノ長サ五寸、兩鋌交ハルv之ニ、置ケバ如平カナリ、如シ_不レバ_v平カ不v利ナラ、兌ス2丌《ソノ》兩末ヲ1、} [#折り返して1字下げ]【大意】 本文昔築の二字解すべからず、古人皆前後に脱誤あらんと云へり[#畢注では「皆築」と解す]、されば此所未だ何義を主として説きしかを詳かにせざれども、蓋し守禦の器械を具ふべきことを言へるならん、 [#折り返して1字下げ]【通釋】 守禦をなすに相當なる器械を備ふべし、乃ち七尺に一の鋸|欘《シヨク》を置き、五歩に一の土籠を置き、五築の間には鐵鋤《テツ・スキ》あり、長斧は柄の長さ八尺なるを置き、十歩に一長鎌を置き柄の長さ八尺、十歩に一の斫《シヤク》あり、長錐を置く柄の長さ六尺其の頭の長さ一尺、三歩に一大鋌あり、前方の長さ一尺其の末|㕚《サウ》子の如くに細くして、長さ五寸、兩鋌を交はして立て置くこと平等なれば善《ヨ》し、若し不平等なるときは、之を用ふるに利ならず、其の兩末を鋭《トガ》らし置くものとす、 【解義】 [#ここから1字下げ] [#折り返して1字下げ]【七尺一居屬】七尺は其の距離を言ふ、居は鋸と同じ、「ノコギリ」と訓ず、屬は欘と同じ、斫なり「テヲノ」と訓ず、 [#折り返して1字下げ]【五歩一蘲】蘲は籠臿の類、土を盛る器なり、「モツコ」と稱す、 [#折り返して1字下げ]【五築有銕】五築は其の距離未だ幾何なるを詳かにせず、銕は夷の字に通じて、此所にては鐵の古字と同じからず、夷は平也、草地を削平するよりして夷と名づく、鋤なり、「スキ」と訓ず、 [#折り返して1字下げ]【一長鎌柄長八尺】「六韜」にも{艾《カル》2草木ヲ1大鎌長サ七尺以上三百枚}とあり、 [#折り返して1字下げ]【十歩一】斲は斫なり、「テヲノ」と訓ず、 [#折り返して1字下げ]【三歩一大鋌】鋌は箭の足の臺中に入る者、「ヤノコミ」と訓ず、孫注には鋋の訛となし、説文を引きて小矛なりと解せり、 [#折り返して1字下げ]【蚤長五寸】蚤は㕚に通じ、手足の甲なり、又爪に作る、字彙に{車幅入ルv牙ニ處ヲ爲スv蚤ト}とあり、蓋し鋌末の鋭細なること爪の如き處を謂ふ、 [#折り返して1字下げ]【置如平】如は而と同じ、 [#折り返して1字下げ]【兌丌兩末】兌は鋭と同じ、丌は其と同じ、既に見ゆ、 [#ここで字下げ終わり]